理事長所信

はじめに

 幼い頃、毎年お盆の時期になると、お墓参りへ向かう車の中で私はいつも、祖父より戦争の話を聞かされてきました。
 祖父は、先の大戦においてアジア南方の戦線に出征し、蛇やかえる、昆虫などを食べて命をつなぎ、終戦時には捕虜となりながらも、なんとか戦地より生還しました。そして父が生まれ、わたし自身も今、この時代に生を受けています。
 しかしながら、先の大戦において出征した多くの兵士たちが、子や孫を残すこともなく海外で命を散らし、その遺骨は、未だ100万柱以上が祖国に還る事なく戦没の地に眠っていると言われています。
 また、私たちの暮らすまちに目を転じてみると、1945年、先の大戦末期である8月9日、広島の原子爆弾に続き、終戦へと大きく傾くきっかけともなった一発の爆弾「ファットマン」が長崎に投下され、一瞬にして10万人以上の尊い命を奪いました。周知のように、この爆弾の第一攻撃目標は現在私たちが活動するまち北九州でした。もしも、当初の計画通りにこの原子爆弾が北九州に投下されていれば、平地の多いこの地域は、ほぼ全域が被害を受け焦土と化していたであろうと言われています。

 現代(いま)に生きる私たちは、幸いにもこの時代、日本という国に生を受け、様々な問題はありながらも世界有数の豊かさと平和を享受し、日々生活を送ることができています。しかし、私たちが当然のように生きているこの時間は、決して当たり前のものではなく、そこに至るには多くの先人たちが礎となっていることを忘れることは出来ません。だからこそ、私たちが目指す、明るい豊かな社会の実現のため、先人たちへの想いを過去に置き去りにすることがあってはならないのではないかと考えるのです。
私たち青年会議所に所属するメンバーは、皆それぞれ生活の基盤とする仕事があり、また家族があります。その上で、時間とお金を費やしながら青年会議所運動を行うことは、決して楽なことではありません。しかし「なぜそこまでして、青年会議所運動を行う必要があるのか」という質問に対して、私は明快な回答を持っています。
 “現代(いま)という時代は、先人たちから託された未来であり、その託された未来を、次代へと確実につないでいくこと。このことこそが先人たちの声無き声へ応える道である”

北九州の「たから」(価値)をみがきあげよう(まちづくり)

 昨年開催された全国会員大会北九州大会において、私たちが掲げた開催理念に「世界の環境首都という志高きビジョンの実現に向け」との一節があります。これは、我々北九州青年会議所(以下北九州JC)も市民の一員として、地域にポジティブな変化を巻き起こすために率先して行動する決意を現したものですが、ここで掲げた「世界の環境首都」とは、“将来世代のことを考えた上で、責任世代が今ある資源・資産を有効に活用し、経済が健全に発展し、社会的な公正が整った、社会環境・経済環境・自然環境の全ての環境問題に対して主体的に行動する社会”、すなわち持続可能な社会を先駆的に実践するまちを意味します。
 私たちのまちは、かつて工業生産という経済効率のみを追求した結果、自然環境の破壊による深刻な公害問題を引き起こしたという経験があります。ただ、自然環境のみを重視することによって地域の経済が成り立たなければ、やはり十分な社会環境を整えることはできません。部分的な解決を求めても、それは全体の問題解決にはつながらないのです。すなわち、これらの環境がバランスよく調和した地域の実現こそが「明るい豊かな社会」につながるのではないでしょうか。
 本年は小倉南区にある「曽根干潟」を通じて、これらの環境に対する包括的な取組みを行いたいと考えています。「干潟」の役割は、自然界に多様な生態系を生み出すゆりかごであるとともに、周辺域に豊かな海を作り出す土壌ともなるため、漁業生産の場という経済的な性質も併せ持っています。また、水質を浄化する作用もあり、周辺の生活環境とも密接な関わりがあるという側面も注目されており、私たちの暮らすまちにあるこの「曽根干潟」という地域資源を、是非とも次代へ残してゆく運動を展開したいと考えています。
 また、私たちは2010年度より「ひまわり」というツールを通じて、3つの環境が調和した明るい豊かな北九州のイメージ作りに取り組んできました。これは、本来ある「北九州の市花」である「ひまわり」に光を当て、磨き上げることで明るく豊かな北九州の「シンボル」に昇華させようという運動です。しかし昨年、私たちが行なったアンケートによると、この運動に対する認知が十分に進んでいないことがわかりました。本事業では、この運動目的を周知するための発信方法なども検証し、引続き取り組むとともに、このまちに潜在的にあるその他の「たから」についても、発掘し磨き上げていきたいと考えています。

地域の未来を担う人材を育成しよう(ひとづくり)

 今、社会は大きなうねりとともに、私たちがかつて経験したことのない未知の領域へと進んでいます。経済や人口が右肩上がりであった時代は過去のものとなり、発展著しい中国をはじめ、アジア各国との競争はますます激しさを増しています。ものづくりで栄えた我がまち北九州もこの競争にさらされ、また少子高齢化と言われる昨今、全国の政令指定都市の中では、最も高齢化の進むまちとも言われています。このような社会環境にあって、ともすると、自分たちの地域をネガティブにとらえ、将来への不安から明るい未来を描けずにいる人が増えてきているように、私は思えてなりません。

 先行きの見えない時代、地域社会を活性化させる起爆剤となりうるものは何なのでしょうか。私は、その根幹となるものが「人」であると考えます。「新日本の再建は我々青年の仕事である。」で始まる設立趣意書とともに戦後の焼け野原の中、我が国の経済復興と明るい豊かな社会を目指して誕生したのが、日本の青年会議所運動でした。この原点に立ち返るならば、まず私たち自身が地域で活動をする青年経済人として、混沌とした未知の可能性を切り拓ける確かな価値観と見識をもち、常にポジティブに社会と向き合い、行動することの出来る人材となることが必要ではないでしょうか。本年は、まず私たち自身が青年経済人としてのスキルアップを行っていきたいと考えています。
 また、私たちは未来を担う市内の中学生を対象として、2005年より北九州ドリームサミット(KDS)事業を行ってきました。この事業の最大の特徴は、「未来のために、我がまちに対して、そして社会に対して何が出来るのかを、自ら考え行動する子どもを育成する」ことにあり、昨年は全国会員大会の記念事業と位置づけ、中学生自らが東日本大震災の被災地である釜石市を訪問するなど、大きな事業展開を見せました。議論だけに終わらず、実際に行動を起こすことをモットーとする本事業は、中学生のみならず、共に活動をする私たち自身にとっても、大きな挑戦と成長の機会を与えてくれる誇るべき事業です。北九州JC60周年を迎える本年は、この事業の本来の目的と原点を整理したうえで、引続き中学生を対象とした取組みを行っていきます。

バランスある国際感覚を養おう(世界平和)

 昨年は、アジア周辺海域において、長年くすぶってきた我が国の主権に関する事案が、相次いで浮き彫りとなった年となりました。このことは、新聞やテレビ、インターネットなどのメディアによって連日発信され、国内でも高い関心と反応を巻き起こしました。しかしながら、ともすると、メディアをはじめとする外部からの情報や、印象のみをもって物事が判断される現在の風潮には、大きな危険性があると感じずにはいられません。ことに、日本の中でも地理的にアジアに近く「アジアのゲートウェイ」を目指す北九州市において、青年経済人の団体である我々は、これらの課題に対して目を見開き、冷静かつ正しい認識をもたなければなりません。その意味において、青年会議所には正しい認識を持つための大きな機会と可能性があります。
 私たち青年会議所は、全世界100以上の拠点にネットワークをもち、国連関係機関以外の世界的NGOで唯一、国際連合のロゴの使用を許可されている組織であり、世界各地に多くの同志を持っています。また、毎年開催される全世界のメンバーとの交流の場である世界会議や、アジア地域のメンバーと交流を行うことの出来るASPACなど、自ら学ぶ姿勢を持てば、見聞を広め、より理解を深める機会が数多く与えられているのです。
 そして、我々北九州JCには、長年にわたって友情を温め、堅い絆で結ばれた世界各地の同志がいます。1970年に姉妹JC締結を行なった台北市國際青年商會(台湾)は、昨年JCI世界大会を開催し、同じく全国会員大会を開催した我々北九州JCと長年培われた友情のもと、お互いが協力しながら大会構築にあたり、それぞれの大会を無事終えることができました。また、メンバー同士の交流にとどまらず、IFP児童交換事業を通じて、世代を越えた交流を行ってきました。先入観にとらわれることなく行われる交流は、子どもたちが成長する過程において、必ずや大きな糧となるものであり、この未来を創る事業に本年も継続的に取り組んでいきたいと考えています。
 また、仁川富平青年会議所(韓国)とは1988年、北九州市の姉妹都市締結に先駆けて姉妹締結を結び、今年で25周年を迎えます。日本、韓国の間では、現在多くの歴史的問題が取り沙汰されていますが、私たちの友情は変わらず四半世紀にわたって続いてきました。
 JCIクリードの一節にある”人類の同胞愛は国家の主権を超越し”との言葉通り、堅い絆で結ばれた私たちは、今一度原点に立ち返り、青年経済人として互いの地域についての理解を深め、未来へ向けた民間交流を推進していきましょう。

10年の軌跡を検証し、未来を創造しよう(ビジョン)

1、JCメンバーの会社は元気がある。社会的にもなくてはならない存在になっている。
2、「現在の活力ある北九州は、あの時のJCの運動のおかげだ」と言われる存在になっている。
3、「日本のJC運動の流れは北九州JCが変えた」と、言われる存在になっている。

 ここに掲げられた3項目は、2003年、北九州JC50周年時に策定された「NEXT50」における10年後の目標像です。60周年を迎える我々北九州JCはこの10年間、目標像に向かってJC運動を展開し、九州厚生年金会館(現ソレイユホール)の存続運動や、昨年発生した震災がれき受入れのための緊急市民アンケートなどは、このまちに大きなインパクトをもたらしました。また、このまちになくてならない存在である「わっしょい百万夏まつり」の運営、そして昨年開園10周年を迎えた「到津の森公園」の支援やサポーター制度などの継続事業は、真に市民から求められる運動として諸先輩方から現在も継続されており、本年も引続き活動の中核をなす市民団体として積極的に関わっていきたいと考えています。
 そしてなにより、招致活動から開催まで、足掛け7年間にわたって展開されてきた「第61回全国会員大会北九州大会」に対する取り組みは、北九州JCの力を大きく進化させるとともに、新たなるまちづくりの起爆剤ともなり、この10年間の運動の集大成というべきものでした。
 本年、私たちは新たなる10年を迎えるにあたり、これらの運動によって得られた意義・効果、また反省点についても、十分に検証する必要があると考えています。そして改めて、10年前に掲げられた目標像に照らし合わせ、運動に対するアプローチを整理し、今後の北九州JCが進むべき未来へのビジョンを確立し、行動へつなげる端緒の年としていきましょう。

地域を変革する組織を作りあげよう(組織)

 私たち北九州JCは、60年にわたり北九州地域で活動を行い、その時代その時代において、地域社会に求められる運動を展開してきました。昨年には、これらの運動の集大成として全国会員大会を北九州青年会議所主管のもと開催し、日々の運動を大きく飛躍させる年となりました。普段経験することの出来ない大事業を推進していく中で、行政をはじめ多くの関係団体との間に生まれたつながりは、私たちが行う活動やそれに伴う情報発信を行う上で活用すべき大切な財産です。
 また我々の団体は、公益社団法人日本青年会議所(以下 日本JC)九州地区協議会、そして福岡ブロック協議会を連絡調整機関として全国各地に698青年会議所、約36,000名の同志を擁しています。一昨年に発災した「東日本大震災」や、昨年発災した「北部九州豪雨災害」直後からの迅速な全国的・組織的支援活動に見られるように、それぞれの地域で起こった問題に対しても地域を越えて連携し、その改善に当たることができる組織です。加えて、地域活性や会員資質向上のための様々なプログラムを有しており、本年も積極的に活用、そしてコミットメントを行っていきましょう。

 青年会議所運動とは、決して完成されるものではなく、社会の変化とともに、これからも進化をしていかなければならないものです。そして、私たち北九州JCが過去60年間にわたって、常に若々しさを失わず、地域に対して能動的に活動を行えてきたその源は何なのでしょうか。それは、JCには20歳~40歳までという年齢制限があるからだと思うのです。40歳までという限られた時間の中で、地域を担う経済人である青年が、その時代に応じた課題に全力で取り組むことのできるシステムが、私たちの組織に、そして地域に活力を与えてくれているのではないでしょうか。だからこそ、この組織を将来にわたって存続させてゆくことで、未来に希望をつなげていく必要があるのです。そのために本年も、多くの未来ある青年を同志として迎え入れる取組みを、北九州JC全体として行っていきましょう。

終わりに

 JC宣言にある“混沌という未知の可能性”は、「混迷」とは異なりネガティブなものではありません。それ自体は正負どちらにも展開しうる、エネルギーが充満したニュートラルな状態と定義づけられています。しかし、もしも私たちが未来に希望を抱けず、何も行動を起こさないとするならば、それはとても暗いものとなるでしょう。
 かつて、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディは、その就任演説において、国家を新しく生まれ変わらせるための決意として、このように国民に語りかけています。“国家が諸君に何をしてくれるのかではなく、諸君が国家に対して何が出来るのかを問うて欲しい”と。私たち北九州JCは、成功の約束などない不確かな未来に向かって、明るい豊かな地域を創造するために行動する団体です。その私たち一人ひとりが、未来に希望を抱き、地域に何ができるかを考え、行動を起こすとするならば“混沌という未知の可能性”は、必ずや「輝く未来の北九州」へとつながるはずです。さあ、皆で新たな一歩を踏み出そう!~未知の可能性~へむかって。

2013年度 テーマ・スローガン

実践躬行
~未知の可能性への挑戦~
口先だけではなく、まず自分自身が身をもって実際に行うこと。また、理論や信条を自ら進んで行為にあらわしていくこと。

  
  

基本方針

1、北九州の「たから」(価値)をみがきあげよう(まちづくり)
2、地域の未来を担う人材を育成しよう(ひとづくり)
3、バランスある国際感覚を養おう(世界平和)
4、10年の軌跡を検証し、未来を創造しよう(ビジョン)
5、地域を変革する組織を作りあげよう(組織)