歴史から消えゆく道
紫の川が響の海に注がれんとするところに一本の橋がった。その橋の名前は常盤橋。この橋を起点にして五つの道が九州全土に広がっていた。その五つの道を通じて、火の国や豊の国の様々な物資が、隼人の民の情熱が、そして遠くは漢の国の、天竺の、そして西洋の様々な情報が、この橋のたもとに集まってきた。古くは神功皇后が洞の海に上陸し、和気清麻呂が、菅原道真が、足利尊氏が、豊臣秀吉が、坂本龍馬が、この北九州というまちに出会い、そして通り過ぎている。いまその足跡の多くが埋もれようとしており、また五つの街道も、北九州が日本を工業で支えるまちとして発展する過程の中で、あるところは拡張されバイパスとなり、また工業用地として道が消えていった。
北九州市が誇る観光資源
しかし、この五つの街道(門司往還・中津街道・秋月街道・唐津街道)とその道のまわりにある様々な財産こそが、私たちの心の拠り所であり、子供の時に育まれる「地域愛」、「地縁」の原点となるべきだと第54代久岡理事長は考えた。同時に新しいテーマパークではなく、これらの財産こそが、北九州市が誇る観光資源の一つであり、それらの財産を「点」で表すのではなく「線」で結び、歩きながら語りながら、そして味わいながら楽しむことが出来るものに出来るとするならば、どこにもない北九州ならではの宝物になると考えいった。
新九州五街道事業スタート
小倉の常盤橋を出発点とし、新門司往還・新中津街道・新秋月街道・新唐津街道・そして新長崎街道を策定しよう。そのときには現在発行されている様々な書籍やガイドブックを参考にしながらも、自分の目で、また自分の足で、耳で、肌で、そして舌で北九州市内をくまなく体感しながら少しずつ新しい街道を策定。もちろん完全に歴史上の道とは違い多少歴史とは異なる道になろうとも「安全で楽しめる」そんな道を紡いでいくことで、私たち自身がいつでもわくわくできるものにしたかった。2006年(平成18年)10月21日、市民105名、JCメンバー100数名、計200名以上の大イベント「歩いて発見!新九州五街道」が開催された。午前中は趣向を凝らしたプレゼンを行い、市民への提言を行った。その後常盤橋をスタートし小冊子を片手に五街道をグループに別れ歩いた。各街道を歩き、再びゴールである常盤橋へ戻ってきた参加者をジャズバンドが出迎えた。歩けば歩くほど、北九州というまちは魅力に富んだまちなのだと言うことを改めて実感する。そんな実感した魅力のほんの一部分を「新九州五街道〜北九州ウオーキングガイドブック」として発表した。また私たちが作ったガイドブックに基づいた体験ツアーを企画し、多くの方々と一緒に時速5kmの北九州の魅力を共有することができた。今でもこの新九州五街道を楽しむ方がたくさんいると聞く。時速5kmの視点でまちの魅力をもう一度考え直す機運がこれからも生まれてくることを心より願う事業となった。